2023/08/25
2023年8月20日(日)第366回グローバル・セッション・レポート
開催後のレポート開催日:2023年8月20日(日)10:30~12:30
場所:ガレリア3階 会議室
ゲストスピーカー:村田英克さん(JT生命誌研究館:表現を通して生きものを考えるセクター・高槻市立富田小学校PTA会長・150周年実行委員長)
コーディネーター:藤田宗次さん
参加者:8名
今回のタイトル:「一人ひとりの“もちあじ”と生きものごとの“もちあじ”」
<村田英克さんから>
前回(昨年)は、私のつくった生命誌研究館の記録映画「食草園が誘う昆虫と植物のかけひきの妙」をご覧いただき、私たちと生活圏を共にする身近なチョウや植物から「私たち人間を含む、多様な生きものの関わり、つながり」を話し合いました。私は、研究館では、生命科学の知見に基づき、38億年という長い時間が育んだ生命現象の豊かさ、その関わりの中での、生きものとしての人間を考えるための展示や映像、季刊誌などの表現に携わっていますが、その立場にあって、いつも、自分自身の「生活者」としてのありようが、問われているように思っています。
今回は、まず私がつくった記録映画「とんだの“もちあじ”」(32分)をご覧ください。私がPTA会長をつとめる小学校の創立150周年記念の作品です。以下、記念冊子に記した作品紹介です。
「富田小の子どもたちはうらやましいなあ。」それが、わが子を通じて、常々思っていた実感。そんな学校を自分ももっと知りたい、との思いから、うっかり引き受けたPTA役員。しかし、PTA活動を通して、知れば知るほど、やっぱり富田小は素敵。背景にあるのは、富田の町に今も息づく歴史と文化。その豊かな資産を、子どもたちが成長する日々につなぐ努力をおしまない先生方、暖かい地域の方々。そして、このような肥沃な土壌を、これまでに培ってこられた歴代先生方、卒業生、地域の皆さまのご努力と連携があってこそ、の今を、とてもとても羨ましく思います。今ここにある人と人とのつながりを、これからも大切にしていきたい。創立150周年ほんとうにおめでとうございます。これからの発展を心より祈念いたします。
自己紹介
藤田さん(コーディネーター):では、みなさんの自己紹介から始めます。
Z・Qさん:中国出身で、日本に来てから2年半です。河南省から来ました。
E・Tさん:島津製作所という会社で、真空ポンプなどを作る仕事をしています。8月11日から20日まで夏季休暇で、明日から仕事です。
K・Yさん:ひまわり教室で、読み聞かせ担当をしています。今まで村田さんのGSは、2回参加しています。今日も村田さんのお話しが楽しみです。
H・Kさん:前回のGSでも、生命誌研究館のお話の中の蝶々と、お能の『胡蝶』の小鼓のイメージが強いです。涼しくなったら、生命誌研究館にも行ってみたいと思っています。今、カナダやハワイのマウイ島で大きな山火事が起こっていますが、その原因についても知りたいと考えています。滋賀県の大津市から来ていて、ほとんど来ています。
児嶋:Global Sessionは、私が亀岡市交流活動センター在職中の1999年から始めました。現在は、366回目で、20年以上続いていますね。最初はもっと英語の学習のように始め、月に何度もやっていましたが、現在は、月に一度で定着していますね。2011年4月からは、私たちのオフィス・コン・ジュントの主催で継続しています。
藤田さん:私は、最初から参加しています。先ほど言われたように、英語の学習から始まったのですが、最近は、日本語でのセッションがほとんどですね。映画会社に勤めていて、今も東映映画村を中心に、映画関係に携わっています。
では、村田さん、お願いします。
グローバルセッション開始
村田さん: 映像を見ながら話合いをしていきたいと思います。
私は、今年60才になり、この4月から管理職をはずれましたが、再雇用として、生命誌研究館で相変わらず表現に携わる仕事しています。2022年のセッションでは、映画「食草園…」を見て頂きながら、身近な昆虫と植物の関わりを探る研究と、生きもの研究と生活者としての私たちの日常との接点や重なりについて話し合いました。
藤田さん:映像の脚本はだれが作られるのですか?
村田さん:映像作りをされている藤田さんならでは、の突っ込みですね。
劇映画であれば、まず構成や脚本から制作が始まると思いますが、記録映画の入り口は、実際に面白い出来事が起こっている現場の魅力をいかに伝えるか? というところになるので、「撮りながら考える」ことが大事だと思っています。もちろん、まず撮ってみて、次には、撮れたものをいかに生かすかという風に、種から育てるように、構成を、映像のつながりや展開を考えて、育てていく、というイメージで映画をつくっています。
で、前作で、「実際に面白い出来事が起こっている現場」は生命誌研究館でしたが、今回、私は、ちょうど150周年を迎える富田小学校(とんだしょうがっこう)を「とっても面白い現場だ」と思ったわけです。
富田小学校は、高槻市内の市街地にありながら1学年1学級で、全校で児童数150人ほど。これは、集団として、お互いに一人一人の顔、個性が見えるよい人数です。町の歴史も古く、室町時代から続く寺内町で、地蔵盆などの伝統も生きています。江戸時代から続く酒造家もあり、そうした地域の文化に触れる授業も組まれています。一人一人の個性や特徴、そして町の歴史や文化を、“もちあじ”という言葉で表現することで、小学校6年間を通して、お互いの価値を認め合い、協力し合って、生活していくことを考える。そんなカリキュラムを学校と地域が手を取り合い育んできた土壌があります。
今回の記録映画「とんだの“もちあじ”」の中でも、「わたしの“もちあじ”ってなんだろう?」と一人一人が考える1年生の宿題のシーンから始まります。
実は、私は、昨年PTA会長を引き受けた後で、今年が小学校創立150周年だと知らされました。私自身、たまたま今ここで家族と暮らしていますが、元々この土地の縁者でもないのに、そんな大役は…と思いましたが、逆に、外から目線だからこそ見える富田小の魅力を記録映画にまとめて未来へおくるということであれば、私にできるなと腹をくくって、150年目の児童の様子を記録映画にすることにしました。およそ半年間、仕事の合間に時間をつくって、学校へ通って撮影を始めると、私自身も直接は知らなかった、子どもたちがどのような毎日をおくっているか、元気な授業や休み時間はもちろん、自分たちで給食を配膳したりする様子や、そして先生たちの思いを、撮影し、編集しながら、全校児童の保護者の皆さんに、ぜひこれを見て欲しいなと思えるような作品として、去る7月の150周年記念式典に体育館で上映することができました。
映画の後半は、児童の歌声によるオリジナル・ソングにあわせて学校生活の映像をつないだメドレーのようなつくりになっています。これは、校歌とはまた別に、歴代の先生方が児童とともに作詞・作曲した「いまとみらい」「わがまちソング」など、素敵なオリジナル・ソングがたくさんあるので、そんな歴代の努力の蓄積が、受け継がれ、今も生きて学校生活を豊かにしているんだという状況を表現したかったのです。富田小学校は、地域の小中学校と連携する小中一貫教育のモデル校として、これまでに学校と地域が連携して、いわゆる総合的な学習の時間を発展させて、“もちあじ学習”などを行う「いまとみらい科」というカリキュラムを開発してきました。数々のオリジナル・ソングや、商店街のゆるキャラ「とんちゃん」、さらに「ひとりぼっちのいないまち」を目指して「子ども食堂」などを展開する地域の福祉法人の活動の場づくりにも子どもたちが参画するという好循環が根づき、育っています。
映画の中で「S・R・P・D・C・A」サイクルという円盤状に描かれた図が出てきます。「P・D・C・A」サイクルというのは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)という循環によりマネジメントを向上させようという、業務管理の手法で、以前よく言われました。いまでは古いと言われているようです。ところで「S・R・P・D・C・A」サイクルというのは、頭にStanding と Research という2ステップがついているのが味噌で、この図は学校内、各クラスに、いつも張り出してあって、子どもたちも先生もいつもこれを心がけているようです。私も最初はピンと来なかったのですが、今では、とても納得しています。つまり、子どもたち一人一人が、自分のものとして問題意識、目標を持って、これから課題に取り組む、そのスタート地点で、自分の「立ち位置」を確認することはとても大事です。途中で目標を見失わないためには、そもそも自分がなぜその課題に取り組むかを、内発として、自分自身の「問い」としなくてはなりません。そのために自分のStaiding pointを明確化することは大事です。そして、朧げに見えた自分なりの目標を、より明確にするために、周辺の状況を自分でリサーチする。目標を実現するための手がかりを、自分で調べて自分の思いと課題を整理できた段階で、はじめて計画のステップに入る。自分から周囲に働きかけて、お互いを尊重し、仲間と協力し合って、社会に働きかけていく。そういう人に育って欲しいという思いがこの円盤には込められているようです。
さて今日は、富田小学校のお話でしたが、今日お話ししながらも、またこの映画を作りながらも、私としては、富田小学校で大事にしていることは、生命誌研究館で表現に取り組んでいる「生きもののつながりの中の人間」という考えに重なるように思っています。そして、最後のS・R・P・D・C・Aのお話は、いつも研究館で永田和宏館長が語っている「自分なりに「問い」を持つということの大切さ」に重なるものと思っています。
映画は、2023年4月に、新1年生を迎えた「第150回入学式」で終わります。
「いまもみらいも どこまでも つづくみちで いまを たいせつに ともにあるいていこう あたらしいなにかに かがやかしい みらいに つづいてる このみちを いまもみらいも どこまでも つづくみちで じぶんらしく かがやく ひかりをみつけよう そのひとつひとつで きれいな にじをつくり いきさきをてらしてくれる ゆめをえがこう かがやく いまとみらいへ ゆめをえがこう」
これはオリジナル・ソング「いまとみらい」の歌詞です。
昨年の映画「食草園」をつくっている間は、作品のエンディングで流している謡曲「胡蝶」が、いつも私の頭の中で流れていました。そして今回、映画「とんだの “もちあじ”」をつくっている間は、頭の中では、この「いまとみらい」がいつも流れていました。
児嶋:「生命誌」の本をもらって読んでいると、前館長の中村桂子さんが、ものすごい数の人たちとインタビューをしてその記録があります。これも村田さんの編集だと思います。その多くの中から、永田和宏さんが、現在の館長に選ばれたことが驚きでした。永田さんは、私が所属する短歌の会の塔の方ですが、科学者でもありますね。
村田さん:中村先生は、現在は名誉館長という立場から積極的に生命誌の発信をなさっています。その本は『生命誌の思い 100の対話』という文庫本で、創刊以来、季刊誌に掲載した対談を、ちょうど100号の時に、それぞれの対談のポイントだけ抽出して、格言集みたいに編集した本です。ホームページでは、いまも全文が読めるんですが、膨大すぎてなかなか読んでもらえないのでその入り口として、コンパクト版を編集しました。研究館は、科学と表現(芸術)と両面性があるので、双方の顔をもつ一流の方って、ちょっと永田館長の他には…。
藤田さん:17年間小・中学生の映画作りを指導してきました。今年のテーマは「あおばな」です。朝顔と同じく、朝早く咲きます。染料に使う花です。花をしぼった汁をぬったり、塗料として塗るときには、水にひたして使います。これを映画の物語として表現するという目標です。
草津「あおばな」として有名で、京都市と草津市が主催しています。化粧品などにも使われています。この映画作りには、小学生が19人参加しました。2024年1月24日に試写会が草津市であります。俳優も、監督も、カメラマンなどの担当も子どもたちがそれぞれ担当します。東映の撮影所の指導ですが。前回の試写会には、300名の会場がいっぱいになったようです。家族をはじめ、親戚の人たちも集まって。子どもたちがそれぞれ作るしんどさと喜びを感じていたようです。後にDVDを作成し、図書館で貸し出しもしています。
このような活動を続けていると、子どもは、だんだんはずれて来るものです。俳優はもちろん、だれもはずれてはだめなんですが、繰り返しはずれてくると、子ども自身が、「自分がやらないと先にすすまない」という現実に気が付きます。それからまた、やる気を出してやるというようなくり返しがありました。ナレーションには、保護者も参加し、年に2回この映画作りを開催しています。
話は変わりますが、生きものの話ですが、近所にコウモリが住み着いている家があり、大変なようです。夜の7時ころ飛び立ち、朝からいます。天敵はいないのか、スプレーでも死なないで糞をまき散らします。以前、鳩が住み着いたけれども、おもちゃのへびを置いたら、来なくなったことがありましたが。
K・Yさん:近所にコウモリが住み着いた家がやはりありました。屋根と壁の間のすき間をかじり、大変だったようです。
H・Kさん:琵琶湖疎水にもコウモリがもともと住み着いているようです。ミャンマーへ仕事の旅行で行ったとき、コウモリの糞のにおいは、ほうじ茶の香りでしたが。
E・Tさん:島津製作所に勤務していますが、職場のみなさんんといっしょに考えるグループがあり、そのリーダーになっていますが、なかなか大変で、目上の人もいますし。
学校での映画作りで、協力してもらっている方はいますか?
村田さん:この映画制作では、PTA役員の仲間には、地域の人への取材依頼や、実際に映画に出てくる催しの運営など協力してもらい一緒につくったと思っています。ただベースにある映画に写っている魅力的な学校生活や、富田の町まちづくりとつながった地域と学校の活動は、すでにこれまでの皆さんの努力で行われていたもので、私は、それを外から目線で記録係りとして記録してまわったという。今のイキイキした学校の様子を150周年の節目にぜひ映像で記録し、未来へ送りたいという気持ちがありました。
E・Tさん:リーダーになりましたが、まだ仕事をし始めて2年くらいなので、自分の知識のなさに困っています。
村田さん:メンバー一人一人の前向きな力を合わせるには、それぞれの人のモチベーションを考えながら、やって行く必要がありますね。グループには目上の人もいらっしゃると言われましたね。私自身は60才でシニア社員となって、今も現場にいますが、あまり年寄りは余計なことは言わないようにしていると、若い次世代が、私は思わなかったような方法で新しく仕事をして行ってくれているように思っています。固定観念にとらわれないようにね。
E・Tさん:目上の人は、当たり前ですが、経験も実績もあるので、自分の立場からリーダーとして接する難しさを感じています。
児嶋:私は、アメリカ大学日本校に6年間いて、その後、亀岡交流活動センターと名前を変えた同じ場所に20年間仕事をしていました。その間、市役所から代わる代わる、課長とか、センター長とかで上司として若い人が来ていましたが、仕事を仕上げていくには、ほとんど気になりませんでした。何をするかを共に考え、目標を決めたら、どうやるかをそれぞれが必死で考え仕上げていくのです。資金もそこそこあり、そのことは考えなくてもいいので、とても楽でした。市民のために共に仕事を作り、発表していくのは、楽しくていやとか、どのように付き合おうとかあまり考えていませんでした。
でも、最初の3年間が終わって、担当課長が市の部署に帰るときに、「この3年間ほどおもしろくて楽しかったことはなかったです。」と言われて、「良かった」と思いました。今もその方達とは付き合いがありますよ。
村田さん:生命誌研究館に「研究」と「表現」の部門がありますが、それぞれ仕事内容も、空気というか、現場での価値観も、違いますから。でも、思ったことを気軽に口にできるような、日常の空気感に気をつけていけば、良い方向に行くのではないかと思います。それぞれの“もちあじ”を互いに生かし合う気持ちを大切にというのは、大人になっても大事なことだと思います。
Z・Yさん:2013年4月に夫がまだ元気だったころ、船で世界一周旅行に行きました。3ヶ月間かけて回るので、その間たくさんの写真を撮りました。それで、ビデオを制作しようという話しになり、友人たちと話をしていたのですが、そこに使用するテーマ曲の話で、最初は一致しませんでした。一人の友人は、「タイタニック号の曲がいい」と言いました。私は「イタリアのこの曲がいい」と提案しました。その友人は、「黙って!」などと言って聞こうとしませんでした。
そこで、私は「みんなの意見を聞きましょう」と提案し、聞いた所、私の方法が採用されました。みんなの意見を聞くのもいいかと思います。
E・Tさん:自分は自信がないので、みなさんがうらやましいです。みんなの意見を聞いてどうまとめるかも。
Z・Yさん:さっきの話ですが、5人でビデオを作ろうといいはじめましたが、その「黙って」と言った人は、気が強く、プライドも高かったのだと思います。
藤田さん:さて、時間ですがあと10分で話したい事が在る人はどうぞ。
Z・Qさん:外国人として見ると、日本の小学生は豊な日常があるなと思います。教科書だけではなく、自然や社会との関わりもつながりを持とうとしていますね。中国の小学生は、自然とのつながりは少ないです。
村田さん:この学校は子どもの家庭数も150人ほどですから、PTAとしての活動もまだ意思疎通できていますが、児童数、家庭数が多い学校は、大変だろうと思います。富田の場合、申し上げたように、ボトムアップによるこれまでの人々の積み重ねがあります。本当は、それぞれの地域で、それぞれの文化を土壌に小さな協働のしくみが根付いていくといいと思うのですが。
児嶋:これが日本の普通の小学校の取り組みではないと思います。同じように150名の1学年1クラスの学校でも、しっかりとした目標をみんなで持っていなければできないと思います。これで、日本と中国の対比はしない方がいいと思いますよ。