2023/02/03
外国につながる子ども・保護者のための居場所つくりを考える研修会レポート
報告2023年1月28日(土)13:30~16:00 ガレリアかめおかの2階大広間にて、2022年度第2回研修会を開催しました。
亀岡市国際交流協会&オフィス・コン・ジュント共催です。
「公立中学校の国際教室で行う母語を活用した教科学習支援の実際~ 誰が・どのような支援を・どのように行っているのか~ 」というテーマで開催しました。
講師は、清田淳子さん(立命館大学文学部教授)と王植さん(オンラインでの外国につながる子どもの母語支援者&川崎市内の小学校での学習支援指導者)のお二人でした。
参加者は、全部で23名でした。
参加者自己紹介と講師への質問
M・Fさん(T中校長):日本語を学びたいという気持ちをどのようにわからせたらいいのか。学びたいと言う気持ちを持つには、学校を知る、学ぶことに価値を持つ、自信を持つなどステップがあると思いますが。2日前に1年生が文化交流会を持ちました。Z・Yさん(母語支援員)の力を借りて、中国の遊びを取り入れたり、しました。外国につながる子どもたちが、自信を持った活躍の場を持ちたいです。
質問:活躍の場をどういうふうにお考えでしょうか?
Z・Yさん(母語支援員):中国から来て今はT中の双子姉妹の支援をしています。どういうふうに支援をしたらいいのか、悩んでいました。彼女らは、小学4年で日本に来たのに、日本語がほとんどわからなかったのです。今は、すこしずつ日本語を勉強したいという気持ちに変わって来たようです。
質問:どうしたら、支援ができるか?
M・Sさん:小学校の教師をしていました。退職後、母語支援員(英語)を小学校でしていたこともあります。韓国やフィリピンから来ていた子どもですが、日本語に対する意欲がありました。でも、ある程度コミュニケーションができる力がつくと、支援が終わってしまうのです。1、2年生で支援していた子が、あとで、国語科で苦労していたと聞きました。学習言語力がつくまで続けた方がいいと思います。でもその意欲をどう持たせ続けていくかが課題です。(できるからいいよ)と言う子もいます。今はひまわり教室の指導者をしています。
A・Uさん:2022年9月から月に2回、2時間日本語が十分でない子に教えています。(元中学校の英語教師) どうしたら、学ぶことが意義があると思うかが課題。今日のスキーマ(知識のネットワークの形成)は、ヒントかなと思いました。
R・Sさん:ひまわり教室の指導者。3ヶ月前から双子姉妹の支援をしていますが、目先の課題を追って来たような気がしました。今日の話から、元を耕さないと無理かなと思いました。「月曜日までの課題をどうしたらいいのか?」に追われて来たような。
言語の能力を鍛える必要があるとこの研修会で思いました。双子ですが、2人一緒は無理かなと思います。1対1に分けてやろうかと話合っていました。Z・Yさんや、W・Lさん(ひまわり保護者)に通訳の支援をしてもらうのは、得がたいことだと思います。でも、いつか、本当の力になるのだろうかとも思います。
T・Tさん(指導主事):教育委員会の指導主事になり5年目です。この間中国からの転入児童は5人でした。現場の先生方は大変で、子どものために、日本語と中国語を話せる人を探すのが大変でした。現在は、民際日本語学校から派遣してもらうことができ、Z・Y先生もその紹介から来てもらっています。
質問:川崎市の行政としての人的資源のシステムはどうなっているのかをお聞きしたいと思います。亀岡市も考えて行かなければと思っていますので。
E・Rさん(インドネシア出身・インドネシア語講師):息子一人がいて、大学生です。この子を産んだころは、支援は全く無かったです。いろいろな家庭のケースがありますね。外国人同士や、どちらかが日本人の家庭や、その場合、国籍は日本で、名字も日本名なので、名前だけでは分からない場合があります。また、保護者が子どもさんにどう関わっているのかもちがいがあります。学校に行くしかわかるシステムはないのかとか外国人がわかる方法が必要です。
また、お話しのように、支援された子が、支援者になるというのは、これからのつながりになると思います。また、保護者のコミュニティも力になりますね。支援者と保護者、学校がいっしょにやって行くことがいいですね。
F・Yさん:多文化共生センターの相談員をしています。私は、2020年にカナダから家族で帰国しました。8年間カナダのトロントにいて、子ども3人とアルメニア出身の夫と5人家族です。小3の息子はカナダ生まれで幼稚園もカナダで行っていました。子どもの言語として、英語にするか考えて、母語の英語と母の日本語を両方話していました。トロントは移民の町で生活の中に異文化や多言語の表示がありました。日本に帰国してからは、母とは日本語で話し、英語を忘れていくような気がします。父親はアルメニア人です。小学校の低学年は、大人が思っている以上に吸収力がすごく、入学後日本語で学び出すと早いと思います。高学年になると、父親の母語も学ぶかもしれません。日本では、外国語を学ぶことが少ないので、日本語でしか、習わない学校はどうなのかとも思いますが。
N・Kさん:小学校の教員をしていました。ラインやビデオで、中1の女の子(お母さんが中国出身)の支援をしています。この子は日本生まれで会話に問題はないのですが、学習言語は弱いのではないかと思っています。教科書の内容もどのくらい理解しているのかと。抽象言語をどのくらい獲得してきたかと。中国人のお母さんなので、日本語での読み聞かせは少なかったかもしれないが、会話はできます。でも、学習言語の獲得が大切と思います。
W・Lさん:中国出身です。小3の男子がいる保護者です。この子は1歳半で日本に来て、中国語をあまり話さず、日本語が基本です。小学校では会話はできますが、文章理解力は弱い気がします。2年生の時にひまわり教室について聞き、参加し出しました。
私は、中国で学んだ教え方で子どもに説明するのですが、子どもは意味がわからないようです。正月明けの教室で四方先生に説明してもらったら、息子は理解できました。外国人が転入したら、市役所などで、ひまわり教室について教えてもらったら、もっと早くこの教室に入れたのにと思います。
Y・Yさん:ひまわり教室の指導者です。教師の退職後、市内2校で指導をしています。今日の話を聞いて、「これはできている」「これは改善しなくては」などいろいろ考えました。中学校の双子姉妹は、意味がわからないこともあるようですが、スキーマの形成が必要ろ確認しました。この子達のお母さんは、ここで同時にやっている日本語教室で学んでいますが、「先生、この子達は明日、英語のテストがあるのですが、意味がわからないので、覚えよといってもできないのです」と言っていました。
S・Sさん:シリア出身ですが、子ども3人は日本生まれで、小6、小4、赤ちゃんです。日本は外国と比べると多様性は少ないですね。我々は日本国籍ですが。私は22年前に日本に留学で来ました。子どもたちには日本語を中心に学んで欲しかったです。自分のシリアの母語はシリアにいる祖父や祖母と話す時にはわからなくて困っていますが。今は外では日本語で、父親とは英語で、母親とはアラビア語で話すことも大切かなと思っています。外とのちがいを感じすぎるのもどうかと思いますが。
質問:母語と日本語の両方を学習言語として持つことは可能でしょうか?親が教えることも可能でしょうか?
参加者からの質問と講師の回答
質問1:日本語環境にいる子どもをバウリンガルに育てることは可能か?
清田さんの回答:簡単なことではないと思います。子ども任せではなく、親御さんも環境を整えることが求められます。例えば、家に母語の本や絵本があるとか、ビデオがあるなど。親の母国にいるおじいさんやおばあさんと話せなくなるだけでなく、子どもが親より日本語力が伸び、親と話せなくなるとか、話したくないということも起こります。日本語を話せない親との会話は面倒だと。
王植さんの回答:家庭の中で、2つや3つの言語環境を保つのは簡単ではないです。子育ての中で両方のバランスを良くしたいとは思いますが。例えば、外では日本語を話し、家庭内では、母語で話すとか。カミンズの図のように、頭の中では両方で考え、伸びているという点から、学校で学んだ事を家では母語で話合うとか。そこでは、堅苦しくなく、軽く普段の生活の中につなげるという方法で。
質問2:母語への意欲をどうやって育てるか?
回答:読み聞かせ:絵を見て内容を把握する。そして、母語の、年齢相応の本に接することや、読み書きへつなげるために、学習言語を育てて行くことが必要ですね。
質問3:学習言語の獲得はどのようにするのか?
回答:低学年の子は、切り替えが早いが、母語の喪失も早いので、良いことばかりではない。(母語の読み書きの力をもっていない場合は、喪失しやすい)留学生や成人とは、子どもの母語の持ち方は決定的にちがいがある。
たとえば「ごんぎつね」を母語で読んで、母語で子どもとやりとりしながら、内容を把握していきます。週に1時間であっても、学習言語レベルの母語に触れ、使っていくことは大事です。どのように教科を教えるのか?が課題になりますね。
質問4:保護者は学習支援に関わらないのか?
回答:
- ネットワークを使う(地域でことばに困っている人がいたら紹介する。してもらう)
例)母語で支援していた保護者が今は、教育委員会でスタッフになっている例もある。 - 保護者とタグを組んで支援する。(保護者とコミュニケーションを取りながら)
例)ポルトガル語の教材作りをいっしょにした。
英語圏出身の子どもの親に「ここまで読んでというメモを渡した。(保護者の活躍する機会を作る)
質問5:行政としての詳しい質問がしたい。
清田さんの回答:国際教室での支援の経験がある先生が、行政担当になっているので、紹介します。
質問6:中国出身の双子姉妹に対する質問
回答:母語支援の方法を実際にやっているのを見せてもらう方法もあります。
質問7:母語支援者について
回答:母語支援者は、ただの通訳ではない。学習支援の場での母語支援者は、教える人です。母文化を共有しているので、子どもがつまずく場所がわかるし、見通しができる。そのため、母語支援者とは、母文化を共有し、教科の内容も教えてくれる人です。
王植さんからの回答:川崎市の行政では、初期支援として、100時間がある。「サバイバル日本語(外部企業)」が日本語学習を提供する。100時間支援が終了後は、国際教室などへ(もし、小学校の時代に100時間が消化されなかった時は、中学校でひきつづき提供する)
横浜市の場合は、初期支援指定学校で2ヶ月間学習する。(子どもにはもっと自然な形での学習の方がいい。)「子どもが日本語ができないから、覚えさせよう」という考えもあるが、子どもそれぞれの理解の仕方があり、思っていることを引き出させる方法が必要であろう。
その他の質問と回答
T・Tさん:日本社会の中で支援してきた子どもたちは、どのように今はなっていますか?
清田さん:日本にいて成長し、高校生、大学生、企業に就職した子もいていろいろです。日本語ができて親を支援する側になっている子どももいます。社会に貢献したいという気持ちがある子が多くいます。
王さん:支援者として中学校に戻って、後輩たちを支援している子どもさんもいます。
M・Sさん:ひまわり教室は、「宿題を見てほしい」という外国につながる保護者の希望で始まりました。私もそのころから、やっています。(2014年)それ以来、この子の日本語能力はどれくらいと言えるのかとよく考えていました。ひまわり教室では、いっしょに勉強したあと、遊んではじけている場所になっていてこれがいいと思います。毎回、子どもの数が多い日も少ない日もありますが、多言語環境にいることを自覚するだけでもいいと思います。学校とのつながりもあり、指導者も学んでいます。
これからの課題としては、バイリンガルの力をつけるのは、なかなか難しいということがあります。でも、その力のある人がこの研修会の場にたくさんいらっしゃると思います。実践の方法を学び、どうやって乗り越えるかを考えていきたいと思います。
R・Sさん:母語支援者は通訳ではないと指摘がありましたが、私たちも通訳だけをしてもらうつもりは、ないですね。
後日頂いた清田先生からの研修会の補足
土曜日の研修会ではたいへんお世話になりました。会の後半&終了後に、たくさんの質問をいただきました。お答えできていないものもいくつかありますので、補足いたします。
・先生からの「外国人生徒が活躍する場」についてのお尋ねでした。
実際に、A先生がいらっしゃる中学校でどのような活躍の場があるかは、直接A先生に伺うのが一番と思います。(私が知っているのは、文化祭の時、国際教室の生徒がみんなで出し物をすることと、卒業式の時、子どもたちの出身国の国旗も壇上に並んでいること、さらには、卒業式の校長先生のお話の中にも、外国人生徒の活動に触れるお話がありました。)
一つだけ言えることは、「1年に1回の晴れ舞台」的な、つまりイベント的な活躍の場だけではなく、普段の学校生活の中で(=日頃の学習活動の中で)、どうやって外国人生徒の存在を「当たり前のように」受けとめ、日本人生徒との学び合いの場を作っていくかの方がとても重要だ、ということです。 たとえば、A先生の中学校では、毎日流れる下校の放送は、多言語でアナウンスされています。とはいってもなかなかイメージもしにくいかと思います。
国際担当の先生へのインタビューが新聞記事になっているので、それを添付します。(参考までに。)
③ ②とも関わりますが、学校での取り組み、国際教室の授業、そして家庭での親子の様子が登場する映像作品を紹介します。
「百聞は一見にしかず」で、大学院の授業でも必ず流す映像です。全部を見ると45分かかりますが、フィンティくんというベトナムの子と、ゆきみさんという中国の子どもの部分は必見です。その二人の子どもだけを見ていくと20分ぐらいです。(学生は衝撃を受けています・・・。「知らなかった」と。)
「大きないちょうの木の下で」という作品で、M先生のいらした学校が舞台です。
もともとはNHKのドキュメンタリー番組でしたが、今は「NHKティーチャーズ・ライブラリー」にネットで申し込むと、無料で借りることができます。
ただ、借りることができるのは「学校の先生」だけで(※常勤・非常勤を問わない)、何の授業で子どもに見せたか、反応はどうだったかなど簡単な報告を書く必要があります。
ひまわり教室の関係者の中に、小中学校や高校、あるいは大学で1時間でも授業をもっている方がいたら、その人に申し込んでもらうと話が早いです。
簡単ですが、補足は以上です。
王さんや私が支援に関わっている学校では、今年度最後の支援が終わりました。
1月は、日本語と母語で、国語の入試問題に取り組みました。(5月に会ったときには日本語がなかなか出てこなかった子どもが、入試の長文問題に取り組んでいる姿を見ると、「頑張ったんだなぁ」としみじみ思いました。)
ひまわりのみなさんは、地域に根付いているという強味と、飽くなき向上心をお持ちで、「はぁ〜、すごい」と思うばかりです。
今回も、たくさんの刺激をいただきありがとうございました。